WJTOG肺がん市民公開講座 in 北九州 −肺がんになったらどうする?− 編集 WJTOG広報部 (2006.11.11発行)
“あててなおす肺がん治療”
御注意
はじめに
この記録は平成18年9月3日に北九州市の国際会議場においてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が西日本新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-〜肺がん患者さんと向き合うということ〜」の討議録です.内容は平成18年9月3日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告と一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演と質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.
“あててなおす肺がん治療”(九州大学 中村和正)

今日は、まず放射線治療はなぜ効くのだろうというメカニズム(仕組み)と最近進歩の著しい放射線治療のお話をさせていただきます。次に一般的に放射線治療がどのように行われるかをご紹介させていただき、最後に肺がんの診療において放射線治療がどこで使われているかについてお話をさせていただきたいと思います。

まず放射線治療ががんの治療に効く、メカニズムのお話からです。DNAの中には皆さんの体の全ての部分を作るための遺伝情報が含まれております。この非常にたくさんの遺伝情報を基にタンパク質などの色々な物質が作られています。放射線はこのDNAを傷つけることで、がん細胞に障害をおこし、細胞分裂ができなくなり、腫瘍細胞を殺すわけです。正常細胞も放射線で傷つきますが、正常細胞は分裂の回数が少ないので修復酵素が働いてDNAの傷を治し、なんとか放射線の障害から耐えるようになっています。一方、腫瘍細胞は、一般に細胞分裂が激しくて放射線に生じたDNAの傷を修復できずに、死に至ります。もちろん、正常細胞にもたくさんの放射線があたりますと死んでしまいますので、放射線治療の進歩は、腫瘍になるべく多くの放射線をあてる一方で、正常組織の線量をなるべく少なくしようとする方向に進んでおります。もう一つの進歩の方向性は、放射線治療に抗がん剤などを併用することです。放射線だけをあてるよりも、抗がん剤を併用することで放射線治療の感受性が高まり、がんをより殺すことが出来ることが知られております。




さて、ここで放射線治療の歴史からお話していきたいと思います。レントゲン博士が110年前にX線を発見してから、放射線治療の歴史が始まりました。そのわずか2年後には初めての腫瘍に対する放射線治療が行なわれました。その30年後には、日本の国立大学で最初の放射線科学講座が九州大学にできました。X線の発見がいかに早く、医療の中に浸透していたか、おわかりいただけると思います。
今から見ると、当時の放射線治療の機械は非常に原始的ですが、その当時は最新式だったこの機械で治療をしていました。みなさんご存知のコバルト治療が始まったのが1951年です。これは先ほどの機械より放射線が深いところまで届くようになったのでこれが主流になりました。今から約50年前も前のことです。


さて、1975年のころに流行った、放射線腫瘍医が出てくるテレビドラマがありました。主役は山口百恵で「赤い疑惑」ですが、当時の大学助教授だった宇津井健(山口百恵のおとうさん役)の職場に遊びに来たときに、コバルトの漏洩事故が原因で山口百恵が白血病になってしまうという設定でした。この大ヒットのお陰でそのころは、ちょっと放射線治療の人気がなくなったんではないかと思っています。しかし、実はその裏で、必死の技術開発が行なわれ、着実に進歩していました。1965年に今の放射線治療の主力といわれていますリニアックが日本に導入されました。その後、陽子線治療や重粒子線治療、さらにガンマナイフとかサイバーナイフとかどんどん開発され、現在ではハイテクのかたまりの放射線治療はめざましい発達を遂げています。




次に外照射について説明していきます。現在の主力は、3次元原体放射線治療と呼ばれる方法で、主にリニアックという機械を使って行なわれます。リニアックのある治療室の中で、患者さんに寝てもらい、あてる部位を中心にぐるぐる機械がまわって治療する構造になっています。






実際の照射は専門の知識を持った放射線技師さんによって行われます。放射線治療医は、患者さんの診察を行ったり、放射線をあてる場所や、どのくらい線量をあてるかを決めています。実際には治療用の寝台に、患者さんが横になっていただいてから、治療のポジションに台を上げます。台の位置は若干高めなんですが、心配は不要で、不安な方にはベルトなどで固定して治療が行なわれます。1回にかかる時間は治療室に入って出るまで10分から15分くらいで、ビームが出ている時間は1〜2分程度くらいです。特に痛くも熱くもありませんのでご安心ください。ただ、勿論治療後に障害や副作用が出てくることはありますが、それはあてる場所によって違いますので実際には放射線治療の担当医のほうから詳しいお話がされると思います。




放射線治療というのは、通常1日1回の治療で、根治的(なおす目的)に照射する場合には、30回から35回あてます。1日1回で、土日はお休みですので、週5回で、だいたい6週間から7週間の治療となります。痛みをとるなど症状を緩和する目的で用いる時には、1週間から2週間での短い治療期間で充分効果があります。


リニアックは放射線の出口の形を自由に変えることができるマルチリーフコリメータがついており、腫瘍の形状にそって、いろいろな方向から、照射することが出来ます。マルチリーフコリメータの幅は5ミリと小さく、なるべく正常組織を傷つけないように腫瘍に集中的に照射できる仕組みになっています。まず、放射線治療を受ける前には、正確な腫瘍の位置の情報を取得するためにCT撮影を行うことがスタンダートになってきています。CTを撮影するときには、基準点を体の表面にマークし、この基準点からの位置情報を得て、治療計画装置と呼ばれるコンピュータにデータを送り、治療医はどういう方向から、どのように照射するかを決めて線量計算をおこないます。実際の計算ができましたら、このコンピュータのデータをリニアックに送って、計算した腫瘍の形にそって、いろいろな方向から照射をしていくという流れになっています。このような治療を3次元放射線治療といいます。この多分割絞りの制御などはコンピュータ技術の発達によってはじめて可能となった技術です。


実際の治療計画では、送られてきたCTのデータを、縦切り・横切りの画像を合成して、腫瘍の位置を入力します。入力するのには幅広い医学的な知識が必要で、腕のみせどころです。その後に正常組織の位置を入力します。呼吸で少し動くので、安全のための少しのマージンをとって、ビームの方向をきめます。ここでは6方向から設定しました。そして、コンピュータがどこの部分にどの位の線量があたるのか、自動的に計算していきます。赤いところが腫瘍で、放射線はほぼ100%あたり、橙色のところは20%から30%くらいで、がん以外のところには非常に少ない線量しかあたっていないということがわかります。いろいろなスライスで線量分布を確認できるので、三次原体放射線治療と呼びます。


昔の照射方向は、前後方向の2方向からのことが大部分で、腫瘍以外にも多くの線量があたっていたのですが、今では、いろいろな方向から、腫瘍に放射線を集中させることができるようになりました。外科の先生は手術台で手術をおこないますけれども、私たち放射線腫瘍医は、コンピュータの上で手術みたいなことを行なっているということをご理解いただいたと思います。








今度は実際の肺がんの広がりに応じてどういう風に放射線治療が用いられるかについてお話していきたいと思います。肺がんが一箇所だけに留まっている場合、元気な方であれば手術が標準的な治療と考えられています。手術ができない方とか、手術を拒否された方には定位放射線治療を行います。これは現在非常に注目浴びている方法で、ピンポイント照射といったほうが皆さんご理解いただきやすいかもしれません。もし縦隔のリンパ節に転移が広がっていた場合には、放射線治療と化学療法の両方を用います。脳に転移した場合は、がんの個数が多い場合は全脳照射といって、脳全体にあてる方法を行いますが、少ない場合には放射線の線量が少なくてすむガンマナイフとかサイバーナイフと呼ばれる方法でピンポイントに照射します。これを定位照射といいます。骨にまで広がった場合には、痛みが出たり、折れたりする危険性がありますので、通常のリニアックを使って緩和的な放射線治療を行なわれています。

定位照射についてお話をしていきます。定位照射は、非常に小さい照射範囲でピンポイントに照射する方法で、2〜3ミリくらい、最大でも5ミリくらいの精度で行うものです。集中させることができるので、今までの5倍から10倍くらいの非常にたくさんの線量をあてて、正常の組織の線量は少ないので、副作用が少ない上に効果は普通の放射線治療よりも非常に高いという方法です。


頭の転移などはガンマナイフやサイバーナイフなどで集中してかけていますけれど、腫瘍のところは100%ですが、周囲は10%くらいで、1点に集中させられています。
1箇所のみに留まっている肺がんに対する定位照射についてお話しします。ここでは8方向からあてているものを示しますが、腫瘍の部分はほぼ100%あたっていますが、周囲は50%とか20%とか分散できています。だから、通常の5〜10倍量の放射線量を一気に照射することができます。ただし非常に精度が高いということが必要になりますので、患者さんが動かないよう、同じ位置で照射できるように工夫が必要です。


これは九州大学で実際に行なっている治療です。九州大学では固定具を作成し、患者さんに寝ていただいてスポンジみたいなものを1人1人の患者さんの体の形に合わせて作っています。この固定具(ボディフレーム)を使うと患者さんはほとんど動かず、呼吸の動きも押さえることができます。そして実際に透視で肺が動かないのを確認して、治療計画用(場所決め)のCTを撮影します。数日後から、線量を7−8方向からあてて治療を行います。実際の治療の前には、もう一度CTをとって、ちゃんとその場所がきめられた中に腫瘍があっているかどうか確認します。固定具から一度患者さんをおろしてしまうと、ずれたりしてしまうことがありますので、固定具からおろさずに、ストレッチャでリニアックに移動させて、放射線をあてます。通常の5倍から10倍の量をあてるので、放射線は時間的には30分から1時間くらいかかります。ただ治療はたったの4回ですみます。痛みも特になく、特にお年よりの方にとっては寝ているだけですのでとても楽な治療です。






治療効果は、かなり良い治療成績が報告されており、手術に近い治療効果があると期待されています。ただ、まだ新しい治療法なので本当の有効性は明確ではないので、JCOGという日本のグループで、手術と同じくらいの効果があるかどうか試験されているところです。

もし癌がリンパ節まで広がっている場合、これは残念ながら、いくつも病変がありますのでピンポイント照射はできません。その時には腫瘍とリンパ節を含めた部位に放射線治療を行います。手術できる場合は手術をするのですけれども、できない方には放射線治療をしますが、1ヶ月から2か月くらい長く治療がかかってしまうことになります。但し、最近抗がん剤とあわせて使うと非常に高い効果が出るということがわかっていますので、体力のある元気な方では組み合わせて治療することもあります。


次に脳に転移している場合,多数ある場合は頭全体にかけるのですけれど、少数の場合には、定位放射、すなわち、ガンマナイフとかサイバーナイフ、リニアックなどを使いピンポイントで治療します。九州大学にあるサイバーナイフですが、小型のリニアック、ロボットアングルで治療中の患者さんの動きを監視して、動きを補正して照射する治療法です。100から200本くらいのビームを一点に集中させて治療しています。脳転移の患者さんの腫瘍が、完全に消えているのがわかります。




もちろんほかの部位も放射線治療は行われます。骨に転移している場合は主に痛みをとるために放射線は利用されています。実際の効果があるかというと、疼痛改善率はだいたい80%です。残りの20%には効果がないのですが、モルヒネ等の鎮痛剤の量が減らせたりする効果があります。また弱くなった骨の骨折予防にも効果があります。放射線治療による癌の痛みに対しては、除痛率は約80-85%、完全除痛率は約50%といわれています。


以上述べてきましたように、ハイテクのかたまり、放射線の治療機の発達はめざましいものがあります。今でも更に新しい機械が開発されていますので、これから益々治療効果が期待できます。


赤い疑惑がヒットしてから30年たち、去年2005年に石原さとみさん主演でリメークされたのですけれど残念ながら、今度はあまりヒットしませんでした。この時もやはりコバルト60の漏洩事故の設定でしたが、国民の皆さんはもうコバルトよりもはるかに放射線治療が進歩したことを知っていたからかもしれません。放射線治療は肺がんの全ての治療に用いられ日々進歩しております。これを放射線腫瘍医が支えていますので、万一の時にはお役に立てればと思っております。

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WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.
(平成18年11月11日)