WJTOG肺がん市民公開講座 in 北九州 −肺がんになったらどうする?− 編集 WJTOG広報部 (2006.11.11発行)
“きってなおす肺がん治療”
御注意
はじめに
この記録は平成18年9月3日に北九州市の国際会議場においてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が西日本新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-〜肺がん患者さんと向き合うということ〜」の討議録です.内容は平成18年9月3日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告と一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演と質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.
“きってなおす肺がん治療”(九州がんセンター 一瀬幸人)

それではきってなおす肺がん治療という題で講演させていただきます。まず、皆様に肺の構造を知ってもらうこと、手術の対象となる患者さんはどんな患者さんであるかということ、手術の実際や最新の技術についてお話させていただきます。次に外科治療成績と成績向上のための方策として、補助化学療法についてもお話させていただきます。

最初に肺の構造についてお話します。右側にあるのが皆さまもご承知と思いますけれども胸部レントゲン写真です。黒いところは全て空気が入っている肺です。左側はその模型図(解剖)ですけれども、ご覧のように肋骨あるいは背骨に肺が守られて存在しています。お腹との境界は横隔膜で横隔膜が動く、胸が動くということによって空気が入って息ができます。両方の肺の間は縦隔といわれ心臓などがあります。肺には空気がとおる管、気管支というのがあり、酸素を取り入れて二酸化酸素を吐き出すというガス交換が行なわれます。この肺胞を中心としてできたのが、腺がんで一番頻度が多いがん種です。これは肺門及び縦隔リンパ節に転移しやすいですので後で述べる手術療法は、肺門あるいは縦隔リンパ節もがんと一緒にとってしまうという治療法になります。



手術の対象となる肺がんの患者さんは、先ほども山本先生からもお話しありましたように、氈`。A期の非小細胞肺がん、あるいは汪の小細胞肺がんにかぎられているということです。もうちょっとすすんだ肺がんの患者さんにも、試験的な治療として手術をする場合もあります。また手術は心臓とか肺機能が充分保たれている方、あるいは併発している糖尿病や高血圧がコントロールされている全身状態がいい患者さんに絞られて行なわれます。ですから例えば心臓が悪い患者さんにはまず心臓の治療を先にして、よい状態にしてから、肺の手術を受けてもらうことを原則としております。

I期からIIIAの一部といいましたけれども、I期というのは癌が局所だけに留まっているもの、II期というのは肺門リンパ節までがんが転移しているという患者さんです。IIIA期の一部というのは縦隔リンパ節の一部だけにしか癌が転移していないだろうという患者さんです。それ以上となると放射線療法とか化学療法などの対象となります。


肺がんの標準的な治療といいますのは、肺葉切除です。肺葉というのは右側に3つ、左側に2つあります。例えば肺の上葉にできたがんの場合は、肺がん病巣を周囲の正常な肺組織を含めて上葉全体をとるわけです。そして、肺門リンパ節と縦隔リンパ節も一緒に取ります。人によっては一つの肺葉切除だけではなくて、中葉・下葉にまたがってがんができた場合は、肺を全部とるという肺の全摘出術というのも行なわれます。

肺機能に余裕がない患者さん、あるいは心臓の弱い患者さんでどうしても肺を十分に切除できない患者さんに対しては、肺の切除部分を少なくするために楔状に切除する方法もあります。肺葉というのは区域という小さな単位からできていますので、この区域を取る区域切除をすることもあります。

逆に肺を越えて周りにがんが進展した場合には、例えば胸椎(背骨)にがんが進入している場合には背骨の一部と一緒に肺も取るとういう手術、あるいは心臓にがんが浸潤している場合は、心臓の一部をとることもあります。そういうのを拡大切除といいます。でも今は拡大切除を単独ですることはあまりなく、化学療法を行なったり、化学・放射線療法を行なったあとに、こういう手術を行なう場合も時にはあります。

しかしながら機能を温存しようという方向性もありますます。先ほど言った、右の肺を全部とったり、転移の肺を全部とるということは、後に障害を残す可能性があります。昔は、例えば気管の次に分かれる右の主気管支に上葉から出てきた癌が浸潤した場合には、右の肺の全摘をしていましたが、気管支を切除してつなぎあわせる気管支形成術という技術を使いますと、右の肺を全部取るのではなくて、右の上葉と主気管支を取り、中葉と下葉を温存することができます。これは私が医者になった時代くらいから始まった手術でありまして、私も九州がんセンターで1980年に手術を最初にやった時のメンバーとして加わりました。今までに100例近くはしていると思います。このようにして肺の全摘をせず中葉、下葉を残すという肺の温存手術は、現在では一般的な手術となっています。

どうやって、胸腔の中に入るのか、肋骨があるけれども邪魔にならないのか、またその切りかた、入りかたをよく聞かれます。開胸方法にもいろんな方法があります。代表的なものが、後側方切開ですが脇の下だけきるという方法もありこれを腋窩切開といいます。現在では胸を数センチしか切らずに、ビデオスコープ(胸腔鏡)をいれて画面を見ながら肺を切除するというのが多くなってきています。これは筋肉をほとんど切らずに温存しておりますので痛みも少なくてすみます。


手術治療を受けるまでの流れですけれども、まず何かおかしいという病変に対して診断をつけます。確定診断というのはがん細胞を顕微鏡で証明することです。しかしながらがん細胞を証明できない場合でも、どうも画像でがん以外には考えられないという人には、やはり手術をすることになります。病変の広がりを調べる病期診断、そして全身の機能の検査、肺活量・心電図とか、運動したあとの心電図等を受けてもらいます。手術適応があるということになりますと、患者さんに説明し、同意書を書いて貰います。そして、麻酔医の問診とか診察があって手術にのぞむわけです。手術は大体2,3時間、まあ4時間かかる場合もありますけれども、麻酔をかけたり、麻酔から覚めさせたりと手術前後に約1時間ずつかかりますので、約5時間ほど手術全体としてはかかります。ですから朝9時手術室に入りますと大体午後2時ごろ出てくるというような時間経過です。それから約1週間から10日して退院ということになっております。病理検査の説明は、早くできていれば退院の時に説明しますし、外来で説明するということもあります。そして、病理検査の結果を見て、経過観察即ち手術そのものだけでいいのか、あるいは化学療法などの治療を術後に加えた方が良いのかということを説明します

肺の手術は専門医、指導医のいる呼吸器外科医のいる施設で受けた方が良いと思います。日本では、肺がんの手術は年間2万件を越しています。呼吸器外科の分野ではこのようないろいろな疾患に対して、呼吸器外科医が手術を行ないますが、その6割位は肺がんです。したがって、呼吸器外科医の主な仕事は肺がんの手術であるということもできます。

次に外科治療成績と治療向上のための対策です。


これは、2002年に報告されました手術を受けられた患者さんの汪から「期までの病期別に5年後にどの程度の患者さんが生きるかということを%であらわしたものです。もちろん高齢者の患者さんが多いので、がん以外でもなくなる可能性もあります。心臓病でなくなったり、脳血管障害でなくなったりする患者さんを含めてのデータです。それでわれわれが対象とする患者さんの半分は、手術以外は何もしなくても治るのですけれども、逆にいうと、手術に何か治療を加えないとその生存をよりよくすることはできないだろうということもわかります。ですから、手術が成功して元気に歩いて帰れるということは、残念ながら肺がんが100%治癒したことに結びつきません。そこで肺がんの治癒率の向上を目指す第一段階として、まず手術の時には転移がない状況である必要があります。例えば肺の上葉だったら上葉にだけにしか癌がない、あるいは肺の近くのリンパ節だけしが転移がないということを前提として行ないますけれども、やはり手術だけでは治らないということは、手術の段階で、もはや今の現在の医療レベルでは発見できないような、小さな転移が存在するということが考えられます。ですからそれに対しては薬を使った治療を付加して、なおる患者さんを少しでも多くしたいと考える訳です。術後に抗癌剤を使った方が良いかどうかを調べるために臨床試験が行われています。これまで世界で大きな試験が6つ行なわれていますが、この内4つまでが、薬を使ったほうが長生きする患者さんの割合が増えたということを示しております。全ての患者さんではありませんが、ある病期分類(癌の広がり)では手術のあとには化学療法を行なったほうが長生きする可能性が高いということです。



北米で行なわれた臨床試験ですので英語で恐縮ですが、IB期とII期(IB期は3センチ以上の大きさでリンパ節転移なし、II期は肺門リンパ節まで転移)では手術後に何もしない群と化学療法の群(シスプラチンとビノレルビンという薬を手術後に4サイクル行う)とでどちらが良いかを調べる臨床試験でした。全部で482人の患者さんについて調べられました。その結果、化学療法を受けた患者さんのほうが,何もしない患者さんよりも15%長生きしている割合が高かったということが分かりました。同じような試験が日本でも行なわれました。日本では飲み薬の抗がん剤が使われて、やはりIB(3センチ以上の大きさのがん)の患者さんでは11%改善するという結果になっております。また日本とアメリカのIB期の手術だけのものを比べてみると、5年生存率(5年後に生きている確率)はアメリカでは57%ですが、日本では73%でした。私が医者になった頃には、アメリカのデータをみて少しでも近づきたいと研鑚してまいりましたが、このデータから見ると現在では日本の方がどうも良いように思われます。日本の呼吸器外科専門医がアメリカより多いということや保険制度の違いなどを総合すると、肺がんの手術は日本で受けた方がアメリカで受けるより良さそうです。




本日の話のまとめに入ります。肺がん患者さんの30%程度には手術療法の適応があります。専門施設で行なわれる肺がんの標準手術は安全で、肺がん手術関連の死亡は1%未満です。全ての肺がんの患者さんではありませんが、手術後の化学療法が成績を向上させているというデータがあります。進行肺がんの患者さんでも、化学療法あるいは化学療法に放射線療法を加えて、手術を追加することが有効な患者さんもいます。しかしながらこれはあくまでも試験の段階でありまして、全ての患者さん、全ての施設でできるわけではございません。以上です。

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WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.
(平成18年11月11日)