WJTOG図書室 蔵書No.05-6

〜肺がんの標準治療と最新治療〜 編集 WJTOG広報部 (2005.1.15発行)

パネルディスカッション
肺がんとかしこく付き合い、向き合うために



御注意
はじめに
 この記録は平成16年11月23日に大阪市のMIDシアターにおいてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が朝日新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-〜肺がん患者さんと向き合うということ〜」の討議録です.内容は平成16年11月23日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告と一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演と質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.


肺がんフォーラム・パネルディスカッション
 肺がんとかしこく付き合い、向き合うために
パネリスト:山中 恒(児童文学作家)
      福岡 正博(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門教授)
      光冨 徹哉(愛知県がんセンター胸部外科部長)
      山本 信之(静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長)
コーディネーター:有吉 寛(愛知県立愛知病院名誉院長/丸茂病院特別顧問)
         田辺 功(朝日新聞編集委員)

 田辺:それでは第2部のパネルディスカッションを始めます。私はこのような講演をたくさん聞いておりますが、きょうの3人の先生方の講演はすばらしくわかりやすいお話だったと思います。ただ山中さんがおっしゃったように、かなり高度な内容でしたので、このパネルでおさらいしながらやっていきたいと思います。それでは最初に、一緒にコーディネートされる有吉先生から第1部で出てこなかった話をぜひお願いします。一つには肺がんにどうしてなるのでしょうか。

田辺 功(朝日新聞編集委員)

 有吉:肺がんに限らず人間の体の中でがんが生じるには、発がん因子という細胞をがん化させる因子があって初めてがんになります。ただしそれだけで人間はがんという病気になるわけではありません。必ずそのがんを増殖させる、大きくさせる働きをする因子があります。例えば何らかの発がん因子が働いて乳がんができたとします。その次に女性ホルモンがそのがんを発育させます。ですからがん化させる発がん因子とその細胞をさらに増殖させる促進因子、この2つが必ずあって初めてがんになっていきます。肺がんの発がん因子にはタバコと空気汚染が考えられますが、何と言ってもタバコによる発がんが一番大きな原因になります。

有吉 寛(愛知県立愛知病院名誉院長/丸茂病院特別顧問)

 田辺:山中さんは遺伝について触れていました。その要素はありますか。
 有吉:がんが遺伝するというのは極めて特殊な場合以外は現時点ではまだはっきりしておりません。ですから今の段階では、がんは遺伝するという考え方をせずに、発がん因子によって発生して促進因子によって大きくなると考えています。遺伝ではなくて環境因子と考えるほうが常識と思っていただいて結構です。
 田辺:山中さんの話の中に診断の話がありました。肺がんをどうやって見つけるかという話ですが、手短に一言でお願いします。
 有吉:一般的な肺がんの治療成績が上がったのは治療法の向上もありますが、現時点ではやはり早期発見が一番の要因だと思います。その意味では検診が考えられますが、従来からある単純な肺の写真を撮るだけの検診ではあまり大きな効果はありません。現在ではCTを用いた検診が考えられていますが、CTを用いた検診がほんとうに有効かどうか、今の段階でははっきりしておりません。ただしそれはあくまでも集団の話であって、一般的に皆さんが個人的に早くがんを見つけたいと思っているときにはCTによる早期発見を試みることが現時点では一番いい策かと思います。
 田辺:そういう前置きをして、これから外科治療あるいは内科治療に入っていきます。それでは光冨先生、外科手術ができるのは一部ということでした。全体では4割くらいでしたか、2割くらいでしたか、ちょっと数字がはっきりしていませんが。
 光冨:手術の対象について病院の性質によってその統計が違ってくるのでちょっと難しいのですが、肺がんと診断された方で手術の対象となる方は3、4割くらいかと思います。
 田辺:それは早期の方だと思いますが、どういう方が手術の対象になりますか。例えば有吉先生がおっしゃったような検診で見つかった人ですか、あるいは咳が出るからおかしいと思ったので受診したという方でしょうか。
 光冨:まず肺がんの側から見ると、手術対象になるかどうかはステージ(病期)が大事です。検診か症状で見つかったがんでは、検診のほうがどちらかというと早期に発見されることが多いので、検診のほうが手術の対象になりやすいと言えます。
 田辺:山中さんは膀胱がんでしたね。山中さんはどうして見つかったのですか。
 山中:もちろんトイレに入って赤信号が出たからですが、痛くも痒くもない。それからしばらく経ってまた出てきたので、これはちょっと心配だと思っていました。あるときゼリー状の状態で血尿が出てきたので、これはいけないと思って病院に行きました。
 田辺:それはかなり早かったわけですね。
 山中:そうですね。でも変な話になりますが、かかった病院の泌尿器科は評判がよくなかったので、僕はよそへ行きたかった。別のドクターに診てもらって、そこで紹介状を書いてもらいました。
 田辺:肺がんの場合、症状で言えばどういう時と考えればよいでしょうか。
 光冨:教科書に書いてあるような症状は血痰とか咳とか胸の痛みです。そういう症状で見つかった方は症状がなくて検診で見つかった方よりも病期が進んでいる可能性があります。症状がないから安心とは言えないと思います。
 福岡:一般的に症状で受診した方はより進行していることが多いので、年1回くらい、例えば高血圧でかかっている家庭医に風邪引きでもレントゲンを撮ってもらったり、最近ではCTを1年ないし2年に1回くらい撮るようにすると、手術できる段階の早期がんを見つけることができると思います。

福岡 正博(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門教授)

 田辺:その手術について。フォーラムのお申し込みのときに質問を書いておられた方がいて、実はいくつか質問が届いております。例えば手術後の注意点や再発の問題、あるいは再発予防について教えてください。
 光冨:手術に関して、体を開いて肺を取る手術をしたことから回復を助けるという意味と、肺がんの再発を早く見つけて対応するという2つの大事なポイントがあります。
 手術そのものに対する養生に関して言えば、これは何でもできることはやってください。手術される方は高齢の方も多く、手術をして入院をしていると体が当然なまってきます。ですから少し体に負荷のかかる、少し息の弾むようなことを定期的にやってくださいと申し上げています。当たり前ですが、風邪を引かないでください。
 再発に関して、できるだけ再発を早く見つけて治療するとより治るのではないかという期待があります。そういう意味では定期的に検診を受けてくださいと申し上げています。でもほんとうにどのくらいの間隔で定期的に調べるとよりがんが治るかと煎じ詰めると、口ごもるところも確かにあります。常識的に主治医の先生が次に予定されることを守るのがよろしいかと思います。

光冨 徹哉(愛知県がんセンター胸部外科部長)

 田辺:次に薬についておさらいします。手術ができない場合に薬物治療がメインになります。いろいろなグラフがありましたが、大雑把に言って肺がんを薬で治療するとどのくらい治りますか。
 山本:昔はまず治る人はいませんでした。ただ最近の標準治療をやると、非小細胞肺がんの場合、日本のデータでは非常にわずかですが100人に1人か2人はがんが消えてなくなる方がいらっしゃいます。あと進行度にもよりますが、手術はできないけども胸部の放射線治療と抗がん剤治療が一緒にできるような状態の患者さんの場合には15〜20%の患者さんで治癒することができます。
 田辺:そうすると、80%くらいは再発したり不幸な結果になることもあるということですか。やはり怖いですね。
 山本:そうですね、言いにくいのですが、転移が既にある場合には抗がん剤だけの治療になります。その場合の治癒は非常に少ない確率になります。転移がないけども手術で取りきれないような状態の患者さんには放射線と抗がん剤を使えるので、20%くらい治って、80%くらいの人はがんを小さくしたり大きくさせないような状態をなるべく長く保つことが目標になります。


山本 信之(静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長) 

田辺:山中さん、やはりこの数字はちょっと怖いですね。
 山中:そうですが、先生方のお話を聞いていて安心する部分は、頭から治るだろうと決めてかかるのではなくて、抑えながら小さくして症状が出ないようにやっていく、その話がものすごく有効だなあと思いました。僕の場合、検査は最初は3カ月ごとで、それがだんだん間延びして1年に1度になってきましたが、やはりそれは僕は守ったほうがいいという気がします。僕も含めて一度がんをやった方はそういう要素を持っているので、それだけに用心されたほうがいいと思います。
 田辺:化学療法は外来でできますか。
 山本:最近では患者さんの状況を判断して、なるべく外来で治療するようにしています。というのは患者さんの生活の質を落とさずにその治療を受けていくことが一番大きな目標ですから。なるべく外来でやるようにしていますし、またできるようになってきています。ただ初めて抗ガン剤の治療を受ける場合、抗がん剤の副作用は人によって差が大きいので、治療を始めた当初は短期間の入院をして、あとは外来で続けるというやり方をとることもあります。
 田辺:標準治療に使われる薬が何種類も出てきましたが、今はどの薬でもだいたいそうですか。
 山本:シスプラチンは肺がんの抗がん剤治療の一番の基本薬ですが、かなり吐き気が強く、点滴に長い時間が必要になりますので、どうしてもその薬が治療に必要ならその薬を投与する間は入院することになります。最短2、3日の入院が必要になります。
 田辺:私もだいぶ昔から取材していますが、入院治療がほとんどでベッドの上に抗がん剤の袋があって、赤い薬とか黄色い薬が点滴で落ちてくるというのばかりでした。福岡先生、今でも病院によってはまだそういう施設があるのでしょうか。福岡先生の施設は一番進んでいますが、全国でみるとどうでしょうか。
 福岡:ちゃんとした調査はありませんが、病院によって差はあると思います。大学病院やがんセンターのような特定機能病院は最も進んでいて、一昨年から包括医療が取り入れられています。国全体の方針に従って、病院側では短期間で入院を切り上げてできるだけ外来で治療するように変わってきています。それが一番大きかったと思いますが、副作用を抑える治療が進歩したので、やってみると割と簡単に外来で通いながらできます。患者さんも初めはこんなきつい治療は入院してやりたいとおっしゃっていましたが、外来で椅子にもたれかかって、テレビを見ながら読書をしながら点滴を受けて治療をするほうが受けやすいという状況になっています。この状況はどんどん全国に広がっていると思います。
 田辺:山本先生の話の中にイレッサという薬が出てきました。実はマスコミが間質性肺炎が多いと随分書いたので、先生も患者さんも怖がる方が多かったという話がありました。死亡率は1〜3%でしたが、イレッサの副作用問題はその後どうなりましたかという質問があります。新聞はあまり書いていないので教えてください。
 山本:薬が市場に出るときにはどのような薬でも臨床試験で始まります。イレッサの間質性肺炎については最初の臨床試験をやったときには掛け値なく我々研究者、医師のほうは全く気がつきませんでした。それが市場に出て何千人、何万人の患者さんに使用されるようになって2、3カ月後にようやく1%、100人に1人もしくは2、3人の患者さんに肺炎が起こることに気づいたというのが現状です。
 肺炎が起こる薬だと気づいてからかなり注意深く肺炎をみるようになりました。通常の薬では副作用は飲みはじめてから数カ月後に起こることが多く、最初の1カ月で起こることは少ないのですが、イレッサの場合には飲みはじめてから最初の1カ月に起こしやすいことがわかりました。そこで最初の1カ月を十分みることによって肺炎の頻度をある程度減らすことが可能になってきています。肺炎に対する恐れは最初言われていたように極端に恐れる必要はありませんが、まだ0にすることができませんので、イレッサを飲んでいる患者さんは定期的にレントゲン等を撮ってチェックしていく必要はあるだろうと思います。
 田辺:イレッサは飲み薬で、先程のシスプラチンなどは点滴薬ですね。薬にも口から飲むものと腕から入れるものと両方あります。そうするとイレッサもそういう意味では使えるようになってきたと思います。質問に戻ります。有吉先生に、肺がんが転移して例えば肝臓にできた転移性肺がんともともとの肝臓にできたがんとはどうやって区別するのですか。
 有吉:まず皆さんが大きく誤解する一つに、今ある臓器のがん、例えば肺に腫瘍があると全部肺がんという形で話をしますが、それはあくまでも最初にできた臓器のがんで呼ぶべきです。乳がんが肺に転移してもこれは乳がんです。肺がんが肝臓に転移しても肺がんなのです。例えば肝臓に仮に腫瘍があったときに、それは肺がんの転移なのか肝臓から発生したものかを見分ける場合、まず肺がんの転移なら肺にもともとの原発巣があるあるいはあったという事実があります。そしてもう一つはそれぞれのがんを特徴づける腫瘍マーカーを調べます。ですからこれを見分けるのは医者の立場から言えばそれほど難しい問題ではないと思います。

 

田辺:実際に採ってきて顕微鏡で見なくてもわかるということですか。
 有吉:乳がんが肺に転移した例が最近時々あります。乳がんの手術をして何年か経過観察をしていると、肺に腫瘍が出てくる場合です。この場合には肺がんが別に発生したのか乳がんが肺に転移したのかわかりかねることがあります。それが肺がんなら肺の手術をしますし、乳がんの肺への転移ならばおそらく転移再発ですから、乳がんの治療ではなくてその治療をしなければなりません。いずれにしても治療法が異なるので、そういう場合には組織を採ることがしばしばあります。ですから治療と関係して見分けようと努力はします。
 田辺:福岡先生は標準治療と最新治療について、臨床試験で効果を確かめているのが最新治療だと話をされました。それについて質問が届いています。どうすれば臨床試験に参加できますか、また参加したほうが得ですか。
 福岡:臨床試験はどこでも行っているというものではありません。ちゃんと臨床試験ができる施設に限られています。その決められた施設に患者さんが来て臨床試験に参加するにもいろいろな条件があります。ある新しい薬を調べようという時には標準治療が有効でなくなった人たちにやることが決められております。また腎臓や肝臓の機能が悪いと条件にかなわないことがあります。施設と患者さん側の条件が整ったときに臨床試験に参加することができます。

臨床試験に入ったほうが得かどうか。これは患者さん自身が最終的に判断しなければなりませんが、2つあると思います。もう治療法がない場合には積極的に臨床試験に入って最新の治療を試すことは決して損ではないと思います。まだ標準治療がある場合、標準治療と最新治療のどちらでもよろしいかと思います。ひょっとして標準治療よりもいいかもしれないから臨床試験をやっているので、今の標準治療に満足されていない場合にはそちらにかけて臨床試験に積極的に参加されるのも一つの考え方です。
臨床試験に参加してメリットがあるかどうかというと、標準治療と変わらないかもしれませんが、新しい治療を受けているという期待感はあると思います。
 田辺:臨床試験を日本人はあまり好きではないと今まで言われていましたが、山中さんはどう思われますか。
 山中:福岡先生のおっしゃったとおりだと思います。神にすがる気持ちに追い込まれるよりも、臨床試験によって可能性を見いだすことは必要だと思います。たまたま僕が入院したときの患者仲間は、生存率は2%ですよと言われました。そのときに「いいですよ、僕はその2%にかけます」。やはりかけただけのことはありました。追い詰められると悪い状況を想像しがちです。確かに臨床試験だとモルモットの代わりではないかと考えてしまいますが、そういうこともあるので、ちょっと考え方を転換したほうがいいと僕は思います。

山中 恒(児童文学作家)

 田辺:その2%というのは何のがんでしたか。
 山中:レントゲン技師の方で、僕はそこまで詳しくは知りません。ただ彼が残りの2%にもかけたことが強く印象に残っています。
 有吉:臨床試験のことで付け加えておきます。私たちは新しい治療法をやみくもに患者さんにいかがですかと提示しているわけではありません。必ずステップを踏んでおります。また多くの患者さんを対象にする臨床試験はある程度標準治療と同等かそれ以上の効果があるという可能性が前提にあります。そういう意味でただやみくもに患者さんを実験に供するということではありません。特にがんの治療には必ず治療意図があります。手を尽くして他に方法がないとか、この方法はきっと以前の治療法よりもいい可能性があるということをある程度科学的にも確率的にも必ずつかんでおります。それを踏まえて患者さんに臨床試験に入るようにお願いすることがあります。

 もう一つの利点は、臨床試験は患者さんから治療成績についていろいろなデータをいただきますので、多くの場合極めて慎重な経過観察が行われます。ある意味ではいい加減な治療よりもよほど安全な形で行われます。これもぜひ知っておいていただきたいと思います。
 田辺:次にインフォームド・コンセントとセカンド・オピニオンについて。先程の先生方のご講演はすばらしかったのですが、山中さんは会場の皆さんは全部わかっていないだろうとおっしゃっていました。患者の側から言えば、病気を理解することは難しいですね。
 山中:患者は自分のわかる情報の部分でしか拡大解釈しませんから、実はわかっているように見えて何もわかっていないという結果が多いような気がしています。きょうの会場には熱心にメモをとっている方もいます。相当熱心な方が聞いているので、このフォーラムの理解度はずっと高いと思いますが、ごく普通の方がインフォームド・コンセントを受けて、全部わかるかというとそのへんは難しいと思います。僕は先程悪口を言いましたが、患者さんを説得するにも威嚇してわからせるのではなくて、ああそうかと納得させなければならないし、患者の側からもここがどうしてもわらかないから教えてくださいと、しつこいと思われても聞いていかないとだめだと思います。理解することが第一だと思いますし、理解する前からこうだろうと思い込んで判断しないことだと思います。

 田辺:光冨先生もどうぞ聞いてくださいとおっしゃっていましたが、なかなかお医者さんは忙しいですね。ほんとうにみんなが先生に、この手術のこれについて教えてほしいと尋ねてきたら対応できますか。
 光冨:私は手術の前の説明に最低30分、長いときは1時間くらいかけています。もう少し若い頃は1時間くらいしゃべっていましたが、逆効果かなと思うこともあったので、最近は30分くらいで終わるようにしています。尋ねてくださると、どこがわからないのか、どこが話し足らなかったのかわかってよろしいのですが、たいていはそんなにレスポンスはありません。「よく説明していただいたのによくわかりませんでした」と言われて、がっかりすることもままあります。

 建前と本音があって、このような場で話をするときは「患者さんももっと勉強して賢くなって選ぶように」と言いますが、逆の立場になれば選ぶのは難しいというのもわかります。例えばあなたの病気はIIB期で、手術をすると5年生存率は40%で、肺機能の予測肺活量は何%で、手術死亡の可能性は 0.8%あると説明されて、ではどうしますか、選びなさいと言われても困りますね。迫るのをやめて、お互いに歩み寄って一つの最善の方法を決めていきましょうと。今まで日本ではインフォームド・コンセントの前にパターナリズムがあって、父親のような感じで「俺に全部まかしておけ」というのにもよさがあったように思います。
皆様にお願いしたいのは「わかってネ」ということです。確率でしか話ができないこともわかってほしい。20%の生存率だといってもその方にとっては生きているか死んでいるか2つに1つで、89%であってもその状況はかわらない。数字を出すと嫌な気分になるかもしれませんが、あくまで参考にして話し合いをするようにしています。
 有吉:私から光冨先生に尋ねたいことがあります。先生が外科の手術のお話をするときに、患者さんあるいはご家族の他に看護師さんがそばにいることはありませんか。私は非常に重要なことだと思っています。
 光冨:原則は付くようにしていますが、忙しく付いてもらえないこともあります。
 有吉:一般的に看護師さんは患者さんの側に立ちますので、一緒に聞いていただいて、先生がいなくなった後理解できていないところをむしろ看護師さんに聞いていきます。インフォームド・コンセントのときにはドクターのほかに看護師さんに付いていただくことを要望したらいいと思います。
 光冨:それは重要なことだと思っています。
 田辺:山本先生のところでは先生の説明をみんな十分に理解していると思っていますか。
 山本:それは難しいと思います。特に内科の治療は非常に暗い話になりがちなところを、一緒に頑張っていきましょうとやっていくことが重要です。またすぐに答えが出ないことが多いので、我々がいつも心がけているのは話を長くしすぎない、長くしすぎるとよくわからないということ。そしてすぐに答えを求めない。これは基本的な姿勢で、話をして少なくとも1日おいて返事をいただいています。一番重要なことを有吉先生に先に言われてしまいましたが、患者さんは看護師さんにお話することが非常に多いので、看護師さんに横に付いてもらうこと。我々のところでは話は医師がしますが、看護師が治療計画表みたいなものを持っていって、説明と併せて看護師さんとの話し合いの中でこの治療を受けてみようか、別の治療法の話を聞いてみようかと、整理ができるようです。1日あるいは2日経って、ではこうしますという返事をいただけることが多いので、やはりチームとして看護師の役割は非常に重要だと思います。

 田辺:山中さん、20年ぐらい前、朝日新聞の前の国立がんセンターで受けたその当時のインフォームド・コンセントはどうでしたか。
山中:他の病院ではドクターは立ってベッド上の我々に話しかけますね。そのときに既にかた膝をついて同じ目線でお話ができたことには感動しました。これはよかったと思います。たいへんわかりやすかったし、僕もしつこくいろいろ聞きました。
 実は途中で面倒になって、「どんなにジタバタしても俺自身がメスを持つわけではない。お任せするからいいや」と放り出したのです。そのときにドクターから「あんた、冷たいね」と叱られました。僕のときと同じような姿勢でインフォームド・コンセントをしたら患者さんは怖くなってその場を逃げ出して、明日午前中に承諾書をもらうときにいなかった方が何人もいるというドクターに「山中さん、冷たいよ」と言わせたほどだから、よほど無関心を装っていたのでしょうか。「僕は信頼していた」と言っても信用してもらえませんでした。

 ほんとうに膝をついて面と向かって説明していただくと、それだけでも親近感を抱きます。面倒くさくても長い時間付き合ってくれると、結構その気になる患者もいますから。ドクターは易者じゃないから見極めろとは言いませんが、それなりのものがあったらドクターはそれに答えていただきたいと思います。忙しいのでしょうか。そのへんは何とも申し上げられません。
 福岡:臨床試験をしている立場から言いますと、医者だけが説明するという時節ではありません。私どもがあらましの治療の内容を説明した後、もう一度臨床試験のコーディネーターが非常に詳しく説明してくださいます。コーディネーターは薬剤師さんや看護師さんがされていることが多いのですが。臨床試験に参加するかどうかその日に即座に答えることはよくないと思います。次来るときまでに考えておいてください、家族とよく相談して考えてください、と時間を与えることと、第三者にもう一度説明してもらうことはいいことだと思います。
 田辺:臨床試験に入っていただくときにも一般的な治療のときと同じようにインフォームド・コンセントがあって、ちゃんと説明を受けて承諾していただくということでした。
 もう一つ、セカンド・オピニオンがあります。福岡先生はどんどんやってくださいとおっしゃっていましたが、実際にはそう簡単ではないと思います。
 福岡:最近私はこういう場に出る機会が多いので、セカンド・オピニオンを求めて来られる方が多くなりました。また最近ではセカンド・オピニオン用の席を用意する病院がかなりふえてきています。その代わり、そのための診察料もいただいています。私どもの施設はそのような態勢にしておりません、一般診療の中でセカンド・オピニオンに対応していますので、かなり時間がとられます。時間を節約するために先生からの紹介状や資料をまとめて持ってきていただくことは非常に大事です。中には主治医の先生に「福岡先生のところへ聞きに行きたい」ということが非常に言いにくいので、資料を持って来られないということがよくあります。そういう心配は絶対ありません。そのようなことを拒否したら病院はやっていけません。先生に紹介状を書いてほしいと言えば必ず書いていただけます。それは常識となっています。

 田辺:光冨先生、どうですか。「先生は手術をしようとおっしゃったけども、私は不安なので別の病院でセカンド・オピニオンを取りたい」と言われると、カチンときませんか。
 光冨:私も人の子ですから多少はありますが、喜んで聞いてきてくださいと送り出しています。セカンド・オピニオンについて誤解があるようなので一言申し上げます。セカンド・オピニオンは前の病院に戻るのが前提です。よその病院の例えば福岡先生の意見を聞いて、やはり先生のおっしゃるとおりでした、あるいは福岡先生はこのようにおっしゃっていましたという回答を持って戻ることが原則です。私たちが受けるセカンド・オピニオンの多くは単なる紹介、つまりこちらの病院では適切な治療ができないのでお願いしますという紹介と変わらない形体があって、そのセカンド・オピニオンを出された病院の先生方の理解と患者さんの理解と、双方のコンセンサスがまだ十分形成されていない印象を受けることがよくあります。

 

田辺:意見を求めに行った病院に患者さんが移ってしまうとよくないですね。
 有吉:私も病院を辞してもしばしばセカンド・オピニオンを受けることがあります。光冨先生がおっしゃったように基本的にセカンド・オピニオンは第2の意見ですから、最初の意見についてどう考えるか、これをまず聞いてもらうことが一番重要です。例えば光冨先生のところからどこかの先生にセカンド・オピニオンを聞きに行くということは、いったん光冨先生のところに戻って、他の病院に移りたいなら再度紹介してもらうというのが基本だと思います。この形体だけは守っていただかないと、結局この制度もおかしくなってしまいます。セカンド・オピニオンは意見を聞いて、それを自分の判断の材料にしてもう一度元に戻って、セカンド・オピニオンをいただいた先生のところに移りたければ、改めて紹介をとるべきだと思います。
 田辺:山本先生からご意見はございますか。
 山本:全く同じです。
 田辺:こういう席では必ずサプリメントに関する質問があります。茸やサメの何とか、いろいろなサプリメントが出ていますが、がんの手術後あるいは治療中に飲むかどうかという話です。山中さんは飲みましたか。
 山中:ほとんど飲みませんでした。暴飲暴食をして膀胱を傷めつけることだけはなるべくやめようと気をつけましたが。僕は有吉先生のお話に質問したいことがあります。病院でもセカンド・オピニオンをとても嫌うところがあります。この患者は絶対に離さないぞということになると困るのですが、そこからうまく逃げ出す方法はありませんか。
 有吉:これは全てについて当てはまるかどうかわかりませんが、私はセカンド・オピニオンを嫌うドクターあるいは嫌う病院は避けたほうがいいと思います。自信がないからだと思います。自信があれば必ず第三者の意見を聞いてくださいと言うと思います。これは基本的な姿勢としてそうされたらどうですか。再度同じ検査を繰り返すことになるかもしれませんが、結果的には私はそのほうがいいと思います。これは私の意見ですが。
 田辺:よくそう言うのですが、新聞社にもそういうことをするとどこの病院にも行けなくなったという投書があります。大阪では病院がたくさんありますからいいのですが、例えば県立病院と済生会病院と何とか病院の3施設しかないとなると、どこからも阻害されることがあるにはあります。でもそういうのは我々の側から言えばなくしていただきたい。

 有吉:これはほんとうに医学教育から始めないといけません。患者さんが受診しにくい環境を作ることは私どもの側でも十分気をつけなければならないと思います。
 田辺:先程サプリメントの話を出しましたが、福岡先生、サプリメントには臨床試験はありませんね。
 福岡:もちろんありませんが、臨床試験にサプリメントが加わってくると少し困りますね。サプリメントには作用・副作用が十分わかっていないものが含まれている場合がありますので、そういうものを併用していると試験結果に影響してきます。たくさんの患者さんから「新聞にはがんが治ると書いていますが、どうですか」と聞かれます。もちろんエビデンスがないので私は何とも申し上げられませんし、いいとは思いませんとしか答えられません。最近雑誌にサプリメントについて載っていたので、紹介していただくとためになると思います。
 光冨:朝日新聞主催で申し上げにくいのですが、文藝春秋の今月号に東北大学の先生がアガリスクについて書いています。臨床試験で示された結果を根拠にして医療を提供している立場から言えば、サプリメントを皆さんのお勧めするわけにはいかないという基本スタンスはあります。逆に、効かないという証明もされていないという見方もできます。アガリスクにしろサメ軟骨にしろ臨床試験は数少ないながらあるようですが、少なくともそれを見るかぎりには効いたとはとても言えません。健康食品だから副作用はないと思っているかもしれませんが、非常に強い肝障害を起こした事例も報告されております。ご自身のリスクで使ってくださいと突き放すようですが、そのように申し上げています。ただサプリメントを使っているときにそれを取り上げる気持ちももちろんありません。それで何かいいか感じがするのであれば続けてもいいと思います。そのようなことが非常によくまとめられていると感じましたので、文藝春秋を宣伝することもありませんが、よろしければご一読されればと思います。

 田辺:そういうので思い出しましたが、サプリメントに限らず今ではインターネットで「肺がん」と「最新治療」で検索すると、いろいろな治療法やいろいろなものが出てきますが、これはどうですか。
 福岡:先程私は肺がん治療では欧米とほとんど変わらないと申し上げました。がんの種類によってはヨーロッパやアメリカでは使えるけれども日本で使えない薬が結構あります。それを何とか是正しようとやっていますが、一方ではインターネットで輸入できるので非常に高いお金を払っている方もいます。欧米で使っている薬ですから輸入して使えるのは事実でしょうけども、それがそれほどすばらしいものであれば、日本もできるだけ早く承認しようとしています。制度を守って臨床試験をして許可することが待てないほど、皆さん方がそれほど慌てて飛びつくほどのものでもないだろうと私は申し上げています。未承認薬について確かに混乱を招いていることも事実だと思います。そのへんは有吉先生が委員をされているので詳しいと思います。
 有吉:少なくとも肺がんに関しては世界と全く変わらないレベルだと考えて結構かと思います。他の大腸がんや乳がんではいくらか問題があります。この問題について厚生労働省で委員会を作って検討していますが、(制度を)根本的に直していく必要があると思います。これには私たちも努力しますが、行政でも一生懸命考えていただきたいと思います。また田辺さんのようなマスコミの方にもぜひ応援していただいて、日本の患者さんが常に世界と同じレベルの治療を受けられるようにしていきたいと思います。
 田辺:これはたぶん患者さんからの質問でしょう、高齢者の治療について。現在の治療法は高齢者にとってたいへん過酷なものです。他に選択肢はありませんか。女性の方ですが、手術から放射線、薬剤まで、患者にとってかなり厳しい部分はありますね。山本先生、やはり結構厳しいものですか。
 山本:がんの治療はいずれも厳しいですね。肺がんの患者さんは平均65歳で、ご高齢の患者さんを対象にしています。そのためにご高齢の患者さんにも耐えられる治療が工夫されてきてきます。抗がん剤治療にしても75歳以下の患者さんと75歳を超えたほんとうにご高齢の患者さんとでは違ってきます。通常は2つの薬を組み合わせるのが標準治療ですが、高齢になると1つの薬で副作用を少なくするやり方もあります。手術にしてもより縮小した手術ができる場合もあります。ですからその治療が辛いと感じた場合には、さらに副作用の少ない治療法はありませんかと尋ねてみることが重要になってきます。

 田辺:山中さんの話の中でドクターの選び方が出てきました。いろいろなご相談が寄せられてお答えになっているようですが、どういうドクターを選ぶべきでしょうか。
 山中:愛想がよくて優しい先生もいいのですが、腕をいかに選ぶかに重心を持っていっていただくほうがいいと思います。例えば漫画家の石坂啓さんのお母さんが手術をされたときに、担当のドクターのことを「あれは人間ではない。嫌だと逃げるのを追っかけていって薬を張りつけて痛い目に合わせる」というくらい怒っていました。ところが結果的に見ると、「あのドクターに診てもらってほんとうによかった。あの人は人は悪いし口は悪いけど腕は確かだよ」と彼女は褒めたたえます。

 僕がどちらを選ぶかというと、愛想よりも厳しくてもほんとうに患者を治してやろうという先生を選びたいですね。ただどうやって見つけるかと言われると難しい。インターネットには必ずしもいいことばかりではありません。出版社が出している本はどこかからお金をもらっているところの先生がいいと書きますから信用なりません。いい先生はどこにいるのか噂はあてにはなりませんが、待合室で担当のドクターはどういう評判かちらちら耳にして、それで判断することはばかにならないと思います。
 自分たちの損得で発言されている人よりも、こういう噂があるけどもどうかくらいの情報を集めて、それを自分で検証するのが有効だと思います。見た目でいいとか優しくしてくれたからいいというのではなくて、インフォームド・コンセントをきちんとわかるようにしてくださったり、長時間かけてくれると患者もその気になります。光冨先生は長時間かけてもがっくりくることがあるとおっしゃいましたが、そんなに落ち込まないでくださいね。
 田辺:有吉先生、人が悪くて口が悪くて腕のいい先生と、人が悪くて口が悪くて腕が悪い先生の見極め方はありますか。
 有吉:ほんとうに難しい問題です。こういう場合にはどなたに紹介するかというだいたいの地図を私自身で作っていますが、それは素人の患者さんではなかなかわからないと思います。ですが、いわゆる口コミからどうも一番正しい答えが出そうな気がします。私自身が患者になったときにどのような先生を選ぶかというと、私は医療サイドにいる身ですからやはり面倒みのいい先生を選ぶと思います。たくさんのドクターがいる病院の仕事をやっていると、口が悪くても患者さんの面倒みのいいドクターが一番信頼がおけるし、それはよくわかります。それが一般の方々の口コミになっているなら、信頼がおけるような気がします。
 福岡:「この治療は私しかやっていません」というのは絶対避けたほうがいいと思います。まず標準治療、どこでもできる治療をきっちりやってくれる先生が一番いいと思います。そこはしっかり見極めてほしいと思います。それからがんの治療は非常に難しいので、暗い先生はやめておいたほうがいいでしょう。治したいという気構えがないと、山中さんのおっしゃった「2%にかける」も出てこないと思います。この患者さんを何としても1%に入れてあげようという思いがなければがんの治療はなかなかできないと思います。
 有吉:きょうは肺がんの話でした。まず大切なことは予防です。まだ肺がんになっていない皆様方にはぜひタバコをやめていただきたい。これによって肺がんの罹患率を非常に減らすことができます。現にアメリカの男性では減ってきています。日本の喫煙率は男性で40数%、女性で14、15%です。これは東ヨーロッパの国と変わりません。依然として増えつづけているのが日本と東ヨーロッパの国々です。ぜひまず予防から始めていただきたい。

 そして次の予防はできるだけ早く見つけることです。これは自分でできるだけそのつもりになってみていただくことになります。
 そしてもし不幸にも肺がんになったら、きょうの光冨先生の最後のスライドにありましたように、今は昔と違って医師だけで患者さんを診る時代ではなくなっています。医療関係者が総出で患者さんを守っていこう、少しでも正常な生活に戻していこうと努力をしています。手術のステージでもあっても進行したステージであっても、ぜひ皆さんいい人生を送ろうという気持ちで頑張っていただきたい。これを私の最後のまとめにさせていただきます。
 田辺:きょうは3時間、肺がんを中心に勉強いたしました。いまの有吉先生のまとめをぜひ皆さんにも生かしていただいて、肺がんにかからないように、かかっても早く見つけるように、そして不幸にしてというときにはいい先生方を探して、先生、治してくださいと言ってください。それではきょうはどうもありがとうございました。先生方、どうもありがとうございました。

個人または病院で患者さんのために情報提供するために利用するのは構いませんが,書籍,雑誌等への蔵書の無断転用はご遠慮ください.

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WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.

(平成16年12月21日)