WJTOG図書室 蔵書No.04-3

〜肺がん患者さんと向き合うということ〜 編集 WJTOG広報部 (2004.9.15発行)

「肺がん患者さんのサポートについて−米国の事例から−


御注意
はじめに
 この記録は平成16年5月2日に大阪市のMIDシアターにおいてNPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構が朝日新聞社と共催した市民公開講座「朝日肺がんフォーラム-〜肺がん患者さんと向き合うということ〜」の討議録です.内容は平成16年5月2日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.統計学的な数字や根拠は複数にわたるものがあり,その中から講演者が適切と判断した報告や論文を引用しており,他の報告を一部異なる場合もあります.また限られた情報と時間内での講演と質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.

テーマ:〜肺がん患者さんと向き合うということ〜

「肺がん患者さんのサポートについて−米国の事例から−
米国がん研究予防財団代表 キャロライン・オーディジェ

 ご紹介いただきましたキャロライン・オーディジェです.私は米国がん研究予防財団の仕事をしています.この財団は19年前に発足しまして,実は私の父ががんで急逝して1年後のことです.さて私の父の名前はエドワード・リチャードソン・ペリーと申しまして,実はペリー提督の曾孫の曾孫のまた曾孫ということになります.私はまさにペリー提督の直系であることになりまして,日本との非常に強いつながりをじかに感じております.そして日本の人々に対しまして賞賛の心を常に持ってまいりました.
 今日は,肺がんについての話をしなさいと依頼を受けました.肺がんというのは世界中で最も多いがんです.にもかかわらず,残念なことに,患者さん自身の見解,あるいは患者さんを支援する人々がどのように考えているのか,そういったことに関して世界中であまり関心が持たれておりません.マスコミ側もあまり関心を持っていないので,報道もあまりしたいといったことがよくみられます.またすべてのレベルでのリーダーシップというものが欠如しておりまして,有名人や著名人の中にも肺がんに関心を持って何か意見を言うということもほとんどないわけです.またさらに,不幸なことに肺がんに関しては,米国においても日本においても,また世界中のどの国においても,肺がんの発見と治療の進歩があるわけですが,患者側にそのような情報を提供される機会がないことも事実です.患者にとっても家族にとっても十分な情報が与えられないということで,最適の治療,ケアを受けるための,治療の選択という意味でも,どのような選択枝があるのかということについても情報がありません.米国におきましては色々な患者組織,患者グループというものがありまして,その数は実に多く数千に及び,患者さんにがん情報を提供しようとしています.これらの患者組織・患者グループがどういった形で役割を果たしているかというと,まず第1にがんの研究に対する研究資金を調達するということです.実際私どもの財団でも,助成金を出す,補助金を出すという形で,がん研究の振興をはかっております.また,患者グループの役割としまして,啓蒙・教育活動というものがあります.対象となるのは一般のみなさん,がん患者,またがん患者をもつ家族に対していろいろな,教育,啓蒙を行います.また地域社会に対してもアプローチをして患者に対するサポートを促進していきます.また患者組織・患者グループというものは,色々な意味でがん患者に対する支援を行うということでも役割を果たしています.この対象となるのは一般の方々,がん患者さんのみならず,さらには抗がん剤などに関する承認・規制当局にも働きかけてがんの治療に役にたつ薬をできるだけ早く承認するように活動しています.


 

 それでは,肺がんがどのような形で発癌していくのか,どのような形で進んでいくのかをその他の疾患,その他のがんと比較してお話ししたいと思います.肺がんというのは,一般の人にとっての認知度からいえば,いまだ比較的よく知られていない,いわば創世記の「若い」がんといえます.これと比べまして乳がんというのは,非常によく知られた非常に「成熟した」がんということが言えるでしょう.乳がんというのは非常に多くの人々が,非常に高いレベルの知識を持っているがんです.このことは,各地域でも,全米でも,あるいは世界中で同じことが言えるのではないでしょうか.乳がんは認知度が非常に高いがんなのです.我々の目標は肺がんも乳がんと同じように「成熟した」状態にもっていきたい,すなわち乳がんと同じように一般の人々から認知されたがんにしたいわけです.
 次に,米国におきましてこれら患者グループというのがいかにして連携を強めてきたのかということをみていただいて,関心を持っていただければと思います.1980年代から1990年代にかけて様々な癌関連の組織が連携を始めて,発展してきました.こういった癌関連の組織が統合してきて,活動対象を政策決定当局としたわけです.またこういった当局の意思決定に影響を与える人たちをも対象になります.そういったことではここにお集まりの皆さん,一人一人が政策決定に影響を与える力を持っておられるわけですから,皆さん方も我々の活動の対象になるわけです.このような活動をしている統合組織として2つの例を挙げて説明したいと思います.一つは1985年に設立された,国立がん研究連合で,がん研究への支援を使命として発足しました.実際には,がん研究における資金調達,臨床試験や治験への支援,幹細胞に関する研究への支援を行っています.もう一つは1994年に設立されたがん指導者評議会で,こちらの組織の使命は,すべてのがん患者に最高の質の治療を受けてもらえるように促進することです.すべての患者さんは最適なケアを受ける権利があるということです.
 こういった患者グループが連合することで何を達成したかという例を示します.我々としてはがん研究に対する資金の不足を改善していこうという使命があったわけですが,その例としまして,米国では国立衛生研究所(NIH)が助成金を出してがん研究を促進していくわけですが,我々の支援活動を通じて5年間でがんに関する研究費が2倍に増大しました.また患者組織が統合することによって,新たな役割として,患者教育・啓蒙ということがあります.患者のみでなく患者をもつ家族も対象にしています.具体的な手段としては,1)いろいろな情報を網羅したパンフレットを作っていますし,2)ウェブサイト(インターネットホームページ)でもそういった情報を出しています.3)また,無料のがんに対する電話相談・情報提供も行っていますし,4)患者とその家族に対して,社会的,心理学的なサポートも行っています.また,われわれは政治的にもロビー活動をやっていまして,それによってがん患者さんがよりよい治療を受けられるようになってきています.また,患者さんの治療成績,がんの予防を向上させるために,がんの強化月間を設けています.その例として,全米の乳がん撲滅月間を設けまして20年になります.また大腸がん撲滅月間も設け,2000年3月を指定しました.
 続いて,ではアメリカから何を学ぶことができるか,すなわち世界の他の地域で患者団体は何を学ぶことができるかについてお話しします.まずは,明確な目標を掲げることです.がん研究の資金調達,病気の予防,患者支援などです.そして自分たちの組織に対して資金面での支援を取り付けることが重要であることを私たちは学び得ました.また自分たちの組織の存在を周囲に知ってもらうための啓発活動をすることです.そして情報伝達の手段を発達させることも大切です.ホームページを活用したり,自分たちのパンフレットを病院や診療所に置いたり,無料でのテレビ,ラジオでの宣伝,マスコミを活用したメディアキャンペーンを行ってきました.そして専門団体たとえばWJTOG(西日本胸部腫瘍臨床研究機構)との提携が有効であるということも学びました.最後に,十分達の意見を主張していく,そのための計画を作って行かねばなりません.すなわち患者グループに対して,一般市民に対して,あるいは政策決定者に対して,また政策決定者に影響を与える人たちに対して,自分たちが主張する支援プランを示す必要があるということです.
 ひとつ,皆さんが心配なさることとして,はたして世界的に一緒に活動できるのかという疑問があります.それに対する私の答えは「もちろん,できる!!」ということです.
ひとつ私がとりあげたい団体といたしまして,世界肺がん連合(GLCC)というものがあります.世界肺がん連合の目的は,
1.一般の人の肺がんに対する認識について啓発を行い,肺がんに対する認識を変えて「肺がんに対する偏見」を減らす,
2.肺がんになる危険のある人々に対し,注意すべき症状と初期の所見の教育と啓蒙すること,すなわち症状や所見を知ってもらうことで患者自身にも早期発見の役割を持ってもらうよう能力を開発していくこと,
3.一般の人々に対して,肺がんというものが非常に重要なテーマであるということを,情報提供し,支援の手がかりとする,
4.肺がんを政策面,規制面で保健関連当局の議題として確立させる,その結果として,よりよい治療のために当局に対して影響をもたらす,ということです.
 まとめとしまして,医師,患者,家族として,啓発活動を通じて肺がんと向き合い,”変える”ことができるということです.また,教育・支援活動(例えば情報源がどこにあるか教える)を通じて,患者さんが肺がんと向き合うことを支援していくことができます.そして,必要な情報をすべて手中にすることによって,患者さんが最良の治療を確実に受けられるようにすることにより,患者さんがより長生きできるようにすることです.医師や,患者自身,家族は,こういうことに影響力を発揮して,支援することができるということをお伝えして,まとめとさせていただきます.
 御清聴ありがとうございました.私にこのような名誉の機会を与えていただきました皆様に感謝いたします.


個人または病院で患者さんのために情報提供するために利用するのは構いませんが,書籍,雑誌等への蔵書の無断転用はご遠慮ください.


WJTOG市民公開講座収録ビデオ配布中!!

WJTOGではできるだけ多くの皆さんにがん情報を提供すべく,市民公開講座のビデオを作製し配布中です.

(平成16年9月1日)