WJOG図書室 蔵書No.02

肺がんで療養される患者さん,ご家族へのアドバイス 編集 WJOG広報部 (2003.5.12発行)


肺がんで療養されている患者さん,ご家族へのアドバイス

はじめに
 この記録は平成14年9月7日に岡崎市のせきれい会館においてNPO西日本がん研究機構(旧NPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構)が主催した市民公開講座の討議録です.内容は平成14年9月7日の時点で最新のことが述べられていますが,その後新たな知見が加わり状況が変わっている場合もあります.また限られた情報と時間内での質疑応答であり,回答者の答えが十分に回答者の意を尽くしてわかりやすく述べられていないこともあります.より詳細なお問い合わせなどは、現在受診されている担当医の先生にお聞きくださることをお勧めします.

テーマ:がんで療養される患者さん,ご家族へのアドバイス
司会
県立愛知病院院長 有吉 寛
アドバイザー
東京都立豊島病院緩和ケア科医長
 向山雄人
県立愛知病院呼吸器科部長
 斉藤 博
静岡県立がんセンター呼吸器内科部長
 山本信之
大阪市立総合医療センター臨床腫瘍科
 武田晃司

質問内容別に以下のように分類しました.質問項目をクリックすると,質問に対する回答にジャンプします.

質問順 質問項目
1 タバコを50年吸っているのですが,今やめた方がいいのでしょうか?
2 ポリープはがんになりますか?
3 肥満はがんになりやすいのでしょうか?
4 年齢の若い人のがんは進行が早く,お年寄りのがんは進行が遅いのですか?
5 肺がんは絶対になおらないのでしょうか?
6 ご親切な他人が民間療法を勧めてくれていますが,どう対応したらよいですか?
7 PETは有用でしょうか?
8 食べてはいけないもの,日常生活で行うべきもの,日常生活で絶対に行ってはいけないものはありますか?
9 イレッサという薬が肺がんに対して認可されたということですが?
10 がんは遺伝しますか?
11 進行した肺がんの治療としてどのようなものがあるでしょうか?
12 小細胞肺がんで4コースの治療が終了し50%以上の縮小効果がありましたが,次回はどれくらいの期間をおいて治療をうけたらよいですか?
13 小細胞癌で今後再発しないようにする方法はありますか?
14 卵巣がん手術を受けた後,再発して抗癌剤治療を受けていますが,いつまで続けるのでしょうか?
15 消化器がん(胃がん,大腸がん),乳がんについて,手術後の抗癌剤治療について教えてください
16 普通,手術後にがんを抑える薬を7種類も使うことはないですね?
17 術後に抗がん剤を飲むべきかどうか,など患者さんから質問されるのですが,もし先生が質問されたらどのように対応されますか?
18 進行度に関して1,2,3とか1度,2度,3度とか尋ねられることがあるのですが.
19 アメリカではがん治療にはメディカルオンコロジスト(腫瘍内科医)が中心となってチーム医療が行われていますが日本の実態はどうなのでしょうか?
20 どの程度の痛みになったら積極的な緩和医療が必要でしょうか?
21 ブロック注射を続けた場合には,何か後遺症がありますか?
22 膵臓がんの術後に,食べ物がつかえる,消化液がうまくでないのか,つかえた感じがするのですが,どんな手当があるでしょうか?
23 胆嚢をとった影響が体にありますか?
24 緩和病棟への平均入院期間は30日ほどと書かれていましたが,移行の時期はこれぐらいが適当と思われますか?
25 スピリチュアルペインなどのケアは医師,看護師など誰でもやっておられるのですか.患者は誰に訴えたら解決してもらえるのでしょうか?
26 家族がホスピスに入院させたいが,患者にどのような声のかけ方がありますか?
27 患者さんに知らせずに家族が緩和医療のみを選択した場合,家族は自責の念に駆られますが,きちんと本人にも話して決めるべきなのでしょうか?
28 医者とのコミュニケーションができてないことに由来する質問
29 アガリスクを含めて民間療法でがんが治ったというのを新聞や雑誌などで掲載され,医者もがんが治ったと言っていると書いてありますが,このことに対する考え方,対応あるいは漢方薬でいいものがありますか?
30 オーダーメイド治療について教えてください
31 県内にPCU(緩和ケア病棟)がどこにありますか.緩和医療と終末期医療の違い,在宅医療について
32 今後どこで相談にのってもらえますか.情報を提供できる体制は?



 1)有吉:まずは,がんの一般的な話からお聞きしたいと思います.
タバコを50年吸っているのですが,肺は黒くなっているでしょうか.循環器への影響はどうでしょうか.今やめた方がいいのでしょうか.
斉藤:この方の肺を直接診たわけではないので黒くなっていると断定はできませんが,他のひとよりは黒くなっているのではないかと思います.タバコは肺がんだけでなく,種々の呼吸器の病気,それから心筋梗塞をはじめとする循環器の病気,他の臓器のがんにもよくありません.百害あって一利なしといえます.今タバコをやめれば,やめただけの利益がありますから,やめたほうがよいです.もしタバコをやめるならできるだけ早くやめてください.
 2)有吉:ポリープはがんになりますか.胃がんを患って7年になりますが,経過はどうなんでしょうか.
武田:一般的にはポリープはポリープであって,がんではないので安心されたらよいとお考え下さい.ポリープががんになるかどうかはまだ議論のあるところです.胃がんの場合,早期の段階できっちりと治療がなされていれば過度に再発の心配はなさらないほうが良いと思います.ただし,毎年の検診など,経過観察の検査はきっちり受けていただいた方がよいです.がんの手術をうけてから7年が経過しているということは,再発の危険は非常に少なくなっていると考えられます.
有吉:追加させていただけば,大腸ポリープだけはがんとの関連が言われていますので気をつけていただいた方がよいと思います.それから,再発についてですが,多くのがんは手術してから5年を経過すればほとんど再発しないと考えてください.ただし,例外的に乳がんだけは10年経過しても再発することがあります.ただ5年経過して再発するのは,ほんとうにたまにあるだけですので,安心してください.
 3)次の質問ですが,.
武田:肥満とがんの関係についてはっきりしたデータはありません.ただし,肥満は生活習慣病の原因になりますので,生活習慣病に関連したがんの可能性はあるかもしれません.
有吉:乳がんの場合は,肥満は危険因子と考えていただいた方がいいと思います.
 4)年齢の若い人のがんは進行が早く,お年寄りのがんは進行が遅いのですかという質問がありますが.
山本:がんの種類を限定しなければ,若い人のがんのほうが進行が早い傾向にあります.ただし,我々が専門にしている肺がんでは,平均年齢が65歳ともともと高齢の方が肺がんになられるわけですから,65歳の10歳前後で差がでることはありません.一般的には若い人の方が進行が早い傾向にはあります.
有吉:若い人というのは何歳ぐらいのひとのことを指しているのでしょうか.
山本:20歳くらいの人のことです.
有吉:私自身は,16歳の乳がんの方と18歳の大腸がんの方を受け持ったことがあります.ただし,このように若い方のがんは非常に稀ですので,何でも自分にあてはめて過剰に心配することは必要ないと思います.もちろん,稀だと言っても1000人に1人ぐらいであれば,自分にあたる可能性もあるわけですが,確率は極めて少ないわけですから,心配しすぎるのもどうかと思います.
 5)次の質問ですが,肺がんは絶対になおらないのでしょうかという質問があります.斉藤先生,肺がんの化学療法,放射線療法,手術について説明してもらえますか.
斉藤:肺がんが絶対になおらないということはありません.早期に見つけて手術をすればどんながんでもなおることが期待できます.肺がんには15-20%を占める「小細胞がん」と,小細胞がんではない残りの80-85%を占める「非小細胞がん」があります.非小細胞がんで,早期の段階であれば手術でなおせますし,放射線治療でもなおることがあります.小細胞がんは早い段階であれば化学療法と放射線療法を併用することで治癒することも期待できます.残念なことは,多くの肺がんが早期に診断できない状態ですので,多くの方の進行した肺がんを化学療法でなおすというのは難しい状況にあります.
 6)有吉:病院にすべてお任せして治療を受けているのですが,ご親切な他人が新薬もどきの民間療法を勧めてくれています.どのように対応したらよろしいでしょうか.
向山:私どもの緩和病棟に受診される患者さんのほとんどが,受診されたときには様々な民間療法たとえばキノコの類を飲まれています.はじめから民間療法をやっておられない方に,新たに民間療法を勧めることは絶対にありません.多くの患者さんは民間療法を2つ,3つをやっておられて飲む量が多くなってしまって,おいしく食事することができなくなっています.食事がおいしく摂取できなくなっている方には民間療法はやめることをお勧めしています.何種類も民間療法をやっていてどうしても民間療法を続けたい患者さんには,せめて1種類にして,食事がおいしく摂取できるよう勧めています.この場合も,民間療法にも副作用があることを十分説明して,飲んでもらっています.
 7)有吉:PETは有用でしょうか.
山本:PETの有用性はある種のがんでは確かめられています.肺がんであれば,PETという検査機器を使うことによって,転移が早く判明したり,転移かどうか判らなかったものが転移であると判明することがあります.ただ今の日本の医療事情ではPETができるところが限られていることと,PETでなくても,従来からのCTやMRIで十分検査できるということを考えあわせると,PETがなくても安心していただいてよろしいです.ただPETがあれば見つかりにくい部分が見つかるという利点があります.ただし,静岡県立がんセンターでもこの11月から検査ができるようになりますが,1日で数人しか検査ができませんので,まだまだ実験段階と考えてください.
有吉:PETというのは動物のペットのことではなくて,検査機器でありまして,いわゆるアイソトープを用いて検査をするのですが,非常に高価で数も少なく,保険適応にはなりましたが,その評価はいまだ定まっておりませんことをご了解下さい.まだ,これが絶対に信用できるというものではないとお考え下さい.
 8)次に日常生活とがんの関係の質問にうつります.食べてはいけないもの,日常生活で行うべきもの,日常生活で絶対に行ってはいけないものはありますか.
武田:非常に難しい質問ですが,私は患者さんには「何を食べてもいいですよ,好きなものを食べてください」と説明しています.やはり食生活に必要な栄養をとり,必要なビタミン類,栄養素をとるということを考えれば,偏った食事は避け,バランスのとれた食生活をするのがよいと思います.もし機会があれば,栄養士さんと相談して,カロリー量や栄養素のバランスなど指導をうけるのもよいかと思います.ただ,絶対に食べてはいけないものというのはあまりありません.
有吉:「がんにならない12ヶ条」等の予防法がありますが,これが絶対というわけではありません.ただ,このように生活したらいかがかということでは参考にはなりますので一度ご覧になってみて下さい.
 9)イレッサという薬が肺がんに対して認可されたということですが,その効果について教えてください.
斉藤:イレッサは,日本では,手術不能と再発の非小細胞肺癌のみに使用できます.日本での臨床試験では28%の方でがんの大きさが半分以下になり,症状緩和にも優れ,通常の抗癌剤よりも早く効果が現れるなど,非常に希望のもてる薬です.ただし,本当にどのように使って良いのかということはまだ判っていません.ですから,どのように使ったら最もよいのかを調べるために,今後臨床試験が必要だと思います.ただ,今現在,他にもう治療法がなくて困っていらっしゃる患者さんには,当院でも使用しています.
 10)有吉:がんは遺伝しますか,親ががんだと子もがんになりやすいですかという質問がいくつかありますが,山本先生いかがでしょうか.
山本:ある種のがん,例えば乳がんと一部の家系で遺伝の関係があるということがアメリカで報告されたりしています.他の病気では,糖尿病でははっきりした遺伝が確認されていますが,がんでは,このようなはっきりした遺伝は確認されていません.昔から医者の間でも「がん家系」というものがあるのではと言われていて,確かにそういう家系があるような雰囲気を私どもも持っております.ただし,親ががんになったからといって,子も必ずがんになるということはありませんので,無用に心配なさる必要はありません.
 11)有吉:現時点で,進行した肺がんの治療としてどのようなものがあるでしょうか.
武田:進行した肺がんでは,手術や放射線療法といった局所療法は適応がない(病状に適った治療ではない)ので,抗癌剤による薬物療法(化学療法)で治療することになります.非小細胞肺癌に限っていえば,プラチナ製剤という抗癌剤が鍵になる主要な薬になります.初回の治療としては,このプラチナ製剤と,他の薬を組み合わせた併用療法をすることが勧められます.皆様がこの治療で完治していただければいいのですが,現実はなかなか厳しいものがありまして,進行した肺がんの場合,再発という問題があります.こういった場合には,さらに次の抗癌剤の治療ということになっていきます.これを2次療法,3次療法と呼んで,薬を替えながら治療していくのが現状ではないかと思います.さらに,それでも再発すれば先ほどお話しがありましたような分子標的薬のイレッサを用いた治療をすることも候補に挙がってくると思います.
有吉:イレッサという薬について追加しますが,この薬は今のところ肺がん,なかでも非小細胞肺がんにしか使用が認められていません.ですから,乳がんなどで使ってみたい方がいらっしゃっても,使うことは認められておりませんし,効くかどうかも全く判っておりません.現時点では肺がんしか使えないということをご了解下さい.
 12)小細胞肺がんについての質問ですが,小細胞肺がんと診断され,4コースの治療が終了して50%以上の縮小効果がありましたが,次回はどれくらいの期間をおいて治療をうけたらよいでしょうかという質問があります.
斉藤:難しい質問ですが,4コース終了してがんが小さくなり症状も落ち着いたのであれば,抗癌剤治療は終了