WJOG図書室 蔵書No.01

肺がんで療養される方へのアドバイス 編集 WJOG広報部 (2002.10.28発行)


肺がんで療養されている方へのアドバイス

 市民講座に参加された患者さん,ご家族の方から寄せられた質問を,西日本胸部臨床研究機構の有吉 寛会長が整理してまとめ,講演会当日に講演された先生,およびNPO西日本がん研究機構(旧NPO西日本胸部腫瘍臨床研究機構)の専門医に対して,回答を求めるという形で,「肺がんで療養されている方へのアドバイス」をしていただきました.以下は,それぞれの質問に関する回答を,西日本胸部臨床研究機構広報部においてまとめたものです.

竹中 文良   ジャパン・ウエルネス理事長 日本赤十字看護大学客員教授 

福岡 正博   近畿大学医学部腫瘍内科 教授
江口 研二   東海大学医学部内科学系呼吸器内科学 教授 

中村慎一郎 NTT西日本大阪病院呼吸器内科 部長

司会 有吉 寛 WJTOG会長 県立愛知病院長

質問内容別に以下のように分類しました.質問項目をクリックすると,質問に対する回答にジャンプします.

質問順 質問項目
1 がんに罹りやすい体質は?
2 がんが大きくなるスピードというのは?
3 リンパ節,リンパ管の役割とは?
4 がん細胞は転移してもがん細胞の名前がかわることはありません
5 爪と肺がんが関係するの?
6 肺がんの進行状態,臨床病期またはステージ(Stage)とは?
7 手術後の食事,仕事は?
8 術後に痰が続いた場合には治るのでしょうか?
9 手術した部分の傷の痛みが続いているのですが?
10 温熱療法に将来はありますか?
11 モルヒネの使用量について
12 肺がんの治療薬としての抗がん剤は?
13 抗がん剤を使っていて抵抗性(抗がん剤が効かなくなる)が出現してきたとか新たに転移が起こってきたときは?
14 抗がん剤の副作用は避けられないものでしょうか?
15 肺がんの新しい治療薬や開発中の新しい抗がん剤(治験薬),抗がん剤の新しい組合せによる臨床試験の治療を受けるには,どこへ行けばよいのですか?
16 強力な抗がん剤治療を受けた後の大手術はいかがでしょうか?
17 がん性胸膜炎(がんによって胸腔に水が貯まる状態)の治療は?
18 末期がんになったときの過ごし方は?
19 代替治療についてどのように考えたらよろしいでしょうか?
20 セカンドオピニオンはどのような求め方をしたらよいですか?
21 病院に「良い」「悪い」という差異はあるのでしょうか?
22 ジャパン・ウェルネスは大阪にもありますか?
23 ジャパンウェルネスにケアを受けるにはどうしたらいいですか?
24 ストレスコントロールに参加するにはどうしたらいいですか?


1.有吉
 がんに一旦罹ると,次々にがんに罹る方がいるが,がんに罹りやすい体質はあるのでしょうか.

 江口:たとえば喉頭がんの方は肺がんになりやすいということは証明されています.この説明として,発がん物質の含まれている喫煙などにより,のどと気管支ということで、同じ空気の通り道になる所にがんが起こりやすくなっていると考えられます.最近,家族性に発症するがんが少しずつ研究されています。たとえば1部の卵巣がん,乳がん,大腸がんなどです.これらのがんに若いうちから罹患した方が身内に複数人おられると,その人もがんになる可能性が高いと考えられます.しかし,大多数のがんでは,まだ発がんの過程が道筋として明らかにされていません。従って,家族性のがんというのは現時点では特殊な場合と考えられます.ただし,将来的にはがんに関わる遺伝子が簡単に検査できるようになり,がん関連遺伝子を調べることで,どの程度の確率でがんになりやすいか判るようになるでしょう.
2.有吉
 手術をして1年ほどしてから,別の場所に1cmほどのがんができてきたのですが,がんが大きくなるスピードというのはどれくらいでしょうか.
 江口:がんが大きくなるスピードは、患者さんごとに様々です.がんの成長過程は、たとえて言うと、自動車のアクセルとブレーキの関係に似ており,ブレーキが十分機能すればそれほど大きくならないし,アクセルに傷がついて制御できなくなれば急に大きくなります.つまりこのアクセルの役目とブレーキの役目をするものがたくさんの遺伝子です。複数の遺伝子の働きが不調になると、細胞のアクセルとブレーキの関係が壊れて、がん化した細胞として無制限に増えたり、体のほかの部分に転移したりするわけです。がんというのは,個人個人の顔立ちが異なるように,がんの性格も異なるのです.
3.有吉
 よく医者からリンパがどうのこうのと言われますが,リンパの役割とは何なのでしょうか.
 江口:人体には,全身あちこちにリンパ節とリンパ管がちょうどネットワークのようにあり、それぞれつながっています.体の奥の方にも,表面の近い皮下にもあります.リンパの働きには様々な働きがありますが,一般的に知られているものは,「ばい菌」をやっつける免疫の働きです.ところが,がんの場合はこれが逆に災いすることがあります.リンパ節とリンパ管を伝ってがんが原発巣から広がることはよくあることです.いわゆるリンパを経由した転移と称します。
4.有吉会長
 先日,ある方から質問されたことですが,意外に皆さんの中にも誤解されている方が多いことがあります.肝臓がんが肺に転移すると肝臓がんですか,肺がんがリンパ節に転移するとリンパ腫かという質問を受けました.これは誤解でして,肝臓がんが肺に転移しても肝臓がん,肺がんが肝臓に転移しても肺がんであるということです.肺がんはどこに転移しても肺がんです.お間違えのないようお願いします.
 江口:がん細胞はどこへ転移をしてもがん細胞の名前がかわることはありません.
5.有吉
 NHKの番組で爪と肺がんが関係するようなことを言っていましたが,どういうことなのでしょうか.

 江口:これは肺がんでなくとも,慢性の呼吸器疾患,たとえば肺気腫などを長く患っておられる方は,爪が山なりに丸くなることはよくあることです.ばち状指といわれるものです.
 有吉:特にこれががんと関係があるということではないですか.
 
5.有吉
 次は,手術のことについて,NTT大阪病院呼吸器科の中村部長に伺います.
まずは,肺がんの進行状態のことを,我々医師は臨床病期とかステージ(Stage)とか言いますが,これを改めてわかりやすく説明してください.
 中村:肺がんですから,まず最初にがんが起こってくるのは肺です.これを通常「原発巣」といいますが,まずはこの原発巣の状態を問題にします.このことはカルテの上ではT因子といってTはtumor(腫瘍)の略です.この原発巣の大きさ,あるいは隣の臓器,例えば心臓や胸膜に広がっていないか評価します.がんが胸膜にまで広がっていれば,そこにがんによる水が貯まります.これによって原発巣の状態を決めるわけです.
 次に評価するのが,リンパ腺(正確にはリンパ節ですが)の状態を評価します.これをN因子と呼びます.リンパ節のことをLymph(リンパ)node(節)と呼びますが,このnode(節)の頭文字をとってN因子といいます.このリンパ節は江口先生の回答にもあったように体中にあって,細菌から体を守るためのものです.このリンパ節が細菌をブロックしている間はよいのですが,がん細胞がリンパ節に到達すると,リンパ節はがん細胞をブロックするどころか返り討ちにあってしまうのです.そしてリンパ節でがんが増殖してリンパ節が腫れるという現象が起こってきます.N因子とはその状態を判断しているわけです.肺がんでは,肺からがんが始まるわけですから,肺の中のリンパ節が腫れているか,次に縦隔リンパ節が腫れているかどうか判断します.縦隔というのは心臓や食道が入っている袋で,左右の肺の間にありたくさんのリンパ節のある場所です.ここのリンパ節が腫れていないかどうかは,最近は造影剤という薬を使って点滴しながらCT検査をすることによって判断することになっています.判断の根拠は実は大きさだけなのですが,がんがリンパ節に転移すると腫れて大きくなるために,がん細胞がリンパ節に転移したと判断できるわけです.この部分のリンパ節が重要なのは,縦隔には心臓をはじめ,生きていく上に重要な大動脈などの血管や食道,神経,気道(息道:いきみち)があり,手術で取ってしまうことができないため,手術が可能かどうかの大きな判断のもとになります.以上の状況を判断した後に,最後にM因子を調べます.Mとはmetastasisの略で,遠隔転移のことです.がん細胞が体中の血液の流れに乗って,肺から離れた他の臓器に転移することを言います.肺がんが肝臓へ転移したという場合は,殆どが血液の流れにのって肺がんのがん細胞が肝臓に辿り着いたとことを意味します.これがM因子です.
 これらのTとNとMのそれぞれの因子を総合してTNMシステムといって,肺がんの場合,臨床病期I期からIV期(I期はまだそれほど進行していない状態で,II期,III期,